【エッセイ】

「さん」と「先生」と“老師”――呼称の面白さと難しさ――

 


曹大峰(Cao Dafeng)


    国広先生と秋葉先生の随筆を拝読して呼称の面白さと難しさを感じました。 まず、研究者間、特に教師同僚間に見られる「さん」のことですが、両先生の対談と佐々木先生のコメントを見ていると、 「親しさの方が勝って来た」場合、大先輩は「さん呼び」するということ、「大先輩として思う」場合、 「先生」で呼ぶということ、また、尊敬する学者友人から「先生」と呼ばれて落ち着かないということ、 大先輩に「さん呼び」するのに「勇気がいる」ということ、多様な場面が提示されて面白いなと感心しました。
    しかし、これまでの経験では理解しにくいことがあります。つまり、 他の大学の研究者の前で自分の大学の学部長の教授に対して若い准教授が「さん呼び」をするということです。 中国語ではその場合、“~老師、~主任(学部長)”を使うのだから、日本語では「~先生」を使うはずだと思うのですが、 「さん」はどうも不思議な日本語で、呼ぶ方と呼ばれた方にはどんな気持ちなのかな、いつも聞きたいところです。
    中国の日本語教科書では「さん」の意味について「敬称を表す接辞で、 中国語の“~先生、小~、老~”にあたる」と説明されているものが多いのですが、上の事実を考えれば、 「敬称」というより「丁寧の意と仲間意識を表す接辞で、中国語の“~先生、~老師、小~、老~”に近い」 と記述を改めた方が良いのではないかと考えることもあります。
    「さん」は研究者間、同僚間以外の場合でも、 尊敬の意より丁寧の意を表す呼称として説明すれば、分りやすいのです。よく知らない方や来客に対して、 「田中さん」とか「李さん」と言った場面、中国語では普通、男性の方には“田中先生”、 女性の方には“田中女士”と呼び分けをしていますが、どちらも“~先生、~女士”と丁寧な呼称が付いています。 それに対して、研究者間、同僚間の場合はどちらも“田中老師”“李老師”と呼び分けをしなくなります。そのほか、 “~老師”は大先輩にでも若手の新任教員にでも通用できるので、「さん」よりも便利な呼称なのです。
    特に親しみをこめて呼ぶ場合は、中国語では“小”、“大”、 “老”という接頭辞が使われますが、その場合、性別より相手の年齢などに沿って苗字の前につけて呼ぶことが多いです。 たとえば、中国人の「王さん」に対して“小王(若い相手)”、“大王(同輩か体の大きい相手)”、 “老王(経験や年齢が上の相手)”と呼び分けをしていますが、一方、この呼称はどうも日本人の二字苗字には付きにくく、 いくら親しい友人でも“小田中”や“老田中”とは言えないようです。
    さて、日本の商店街や店でよく耳にする「オクサン」や「オカアさん」のことですが、 秋葉先生と同じように、最初は面白い感じがしたものです。 同じアジアの中国ではそのような場面に遭遇した覚えがないのですが、ほかの場面はないのでしょうか。

2012年4月

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