【エッセイ】

チェブラーシカをご存じですか?

 


小原信利 


 チェブラーシカは児童文学作家エドゥアルド・ウスペンスキーの原作をもとに、 1969-1983、ソ連で四本制作された人形アニメの主人公。たまたま魅力を見いだし た日本人女性の尽力により、2001年に日本で初公開された。ソ連・ロシアでは、 子供の人気者だが、日本では子供ではなく、若い女性ファンが多いという。本来 の主人公、動物園で働いているワニのゲーナなのだが、今やチェブラーシカが 「主人公」と言えるだろう。2010年、新作が、日本人監督、ロシア人美術監督、 韓国アニメーターにより完成した。11月の「日本週間」にモスクワで一度上映さ れた。日本では昨年12月に公開された。

 このチェブラーシカ、モスクワの果物屋で、店員が南国オレンジの箱を開けた際 に発見されたことになっている。何度箱の縁に座らせても、すぐにバッタリ倒れ るので、その様子を表す動詞から、チェブラーシカと名付けられたのだ。「出生 地も名前も性別も、そもそも一体どういう動物かわからない」生き物だ。動物園 でも、一体どういう動物かわからないために受入れちられず、町で暮らすうちに、 孤独なワニのゲーナが、町中に貼った友人募集ビラを見て友達となり、二人のお 話が始まる。
 チェブラーシカという名、母音aで終わる。普通なら女性名詞だ。ところがこの名、 男性形として扱われる。格変化も男性形で、ロシア語学習者には頭が痛い。とこ ろで、疑問を感じていたことがある。「性別も、そもそも一体どういう動物かわ からない」のに、セリフを聴く限り男性なのだ。ロシア語では、動詞過去形の末 尾、男性は、l(エル=発音はル)で、女性は、aが加わり、la(発音はラ)となる。 一見どちらかわからないキャラクターでも、過去形のセリフを聞けば性がわかる のだ。

 「性別も、そもそも、一体どういう動物かわからない」生き物、なぜ男性なのか という疑問、ネットで調べたところ、ハリコフ大刊行の「ジェンダー研究」ジャー ナル12号に、オリガ・ピロジェンコさんが書かれた「映画の中の歴史:ソ連アニメ におけるジェンダー表象」という論文があった。そこに、こうあった。(148ペー ジ)

 ワニのゲーナも少女ガーリャも、オレンジの売子と全く同様、チェブラーシカが 男性であることをはっきりと知っている。«年少の観客»を考える場合、無性/両性 具有の存在など決してあり得ず、こうした«ジェンダー的明確さ»で、主人公は女 性/男性という二項対立のシステムによって表現されなければならないのだ。

 アニメでは、少女ガーリャと、シャパクリャク「おばあさん」も活躍する。ピロ ジェンコさんは、この二人の行動・言語活動についても興味深い分析をされてい る。同じ原作者ウスペンスキー氏作品をもとにした別のアニメ・シリーズ「プロ スタクワーシャの三人」の「フョードルおじさん」という主人公の男の子と両親 についての分析も実に興味深い。長年見なれたアニメ、おかげで一層面白く見ら れるようになった気がしている。

2011年6月

 

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