2023年5月19日

 

もう4ヶ月ほど前、昨年12月21日に発行された朝日デジタルの記者コラム「多事奏論」の編集委員である高橋純子さんによる記事 "のど自慢の「夫さん」に鐘三つ では「主人」を軽んじる岸田内閣には」に注目した。

https://digital.asahi.com/articles/ASQDN4J2ZQDJULZU002.html 
(有料記事)

 

この記事では、1946年から続いているあの長寿番組の「NHKのど自慢」で、NHKのチーフアナウンサーである小田切千さんが「夫さん」という表現を使ったというのだ。小田切さんは「優しい夫さんは....」や「パートナーとは一緒に暮らせてないんですよね?」など、出演者に優しく語りかけたそうだが、これは非常に画期的だと、私の周りでも話題になった。

「たぶん最近まで「ご主人」が使われていた、はずだ。「ご主人は会場に来てる?」「ご主人が好きな歌だったんですよね」と、それを聞くたびに、高橋さんは「う〜ん」と感じてらしたようだ。

そのような従来型の差別意識/女性蔑視の意味合いが潜む呼び方が、NHKでは、いつから「夫さん」や「パートナー」に代わったのかは分からない。でも、たった一言、二言の変化ではあるが、これは大きな進歩であり、他人の配偶者の呼び方に対する意識改革が具体的に全国放送によって人々に伝えられたことによって、これからの日本語や日本社会の将来が明るく照らされた気持ちになった。

私は、この他人の配偶者の呼び方に関して、今までに多数の新聞社から取材を受けてきたが、大方は、アンケート調査結果を報告し、「主人」や「家内」や「ご主人」や「奥さん」という呼び方を推奨する意見と、私のように元来差別的な意味合いを含蓄することばを使うのではなく、差別的意味を含まない中立的でその人の立場が明確に分かる「夫さん/さま」「妻さん/さま」を推奨する双方の意見を紹介するにとどまっていた。新聞は中庸な立場にたって決して意見を述べてはいけないと言っているかのような書き方のものが多く、はっきりと記事の著者が自分の考えや思いを表明している記事は、今まで取材を受けた中で、ほんの数誌だけだった。


しかし、小田切アナウンサーやこの記事を書かれた高橋さんのように、ことばの表現に明確にご自分の意志をこめて発信することは、勇気がいることではあるが、メディアがリーダーシップを執って進めて頂きたい日本社会における、まさに「ことばの改革の実践」だと大いに歓迎したい。

私のように細々とこのようにネットで発信したり、研究論文を発表したりするだけでは、どうしても広く社会に伝搬されないもどかしさがある。しかし、このジェンダーエッセイの他のページで書いた脚本家の坂元裕二さんがドラマの脚本の中に「夫さん」を使ったり、今回のように放送や新聞などのメディアの方々が積極的に「夫さん」や「パートナー」を使うことによって、社会には、そのようなことばに賛同し、実際に勇気を持って使い始める人々がきっと増えていくはずだ。

これからのメディアの変化がきっかけとなることを大いに期待したいところである。